しかも豊かになれる環境をつくりたいのです。
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代表取締役 宮城泰雄
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彼らは社会参加のチャンスを切実に求めている。
■まず自己紹介をお願いします。
宮城 都内私立高校在学中の1986年にフランスへ留学しました。在学中にフランス語圏の西アフリカに旅行したのですが、その魅力に惹かれ、卒業後、ガボンやカメルーンから合板用材を日本に輸入する会社を起こしました。20代、30代は、それこそ日本・フランス・西アフリカを飛びまわっていましたね。
30代の後半になって、そろそろ日本に落ち着きたくなったのでしょうか、業務請負を仕事としている商事会社に入社し、営業開発部長として一人こつこつと営業開発をやっていました。
■障がいをお持ちの方と一緒に働くようになったきっかけは?
宮城 業務請負を仕事としている商事会社の営業開発部長としていろんな仕事を集めていたのですが、請け負った仕事の一部にはコスト割れしてしまうものもある。だけど、その部分だけ断るわけにはいかない。どうしようかなと悩んでいた時に、知人から、障がい者支援施設は、そういう仕事も引き受けてくれるということを聞き、それならとネットで調べ、近くの支援施設に相談してみたのですね。すると、全部やりますよというお返事だった。そこで試験的にお願いしてみると、ちゃんとできる。それが2009年のことでした。
そのとき思いましたね。ああ、障がいをお持ちの方は、仕事はできるのだけど、チャンスに恵まれていなかったのだと。これまで接点がなかったけど、お付き合いをしてみると、必死にチャンスを求めているのだと実感しました。その想いは関係者も同じで、いま、シンオーには、横浜市の養護学校や支援施設の関係者など多くの方々がたびたび見学に来られています。
■皆さん、もっと社会参加したい、させたいと切実に思われているわけですね。
宮城 そうですね。事実、障がいをお持ちの方たちはシンオーに来てメンバーさんとして我々と一緒に仕事をすることが楽しみとなり、また、日々のモチベーションにもなっています。親御さんも、彼らが初めて得た給金でファミレスに招待してくれたと感動されたり、施設の職員の方も、この人がこんなことをできるのだと驚かれたりしています。
これまで、障がいをお持ちの方は、社会参加なんかできるわけがないという諦めみたいなものが周囲にあったように思います。その意識が多くの可能性の芽を摘んできたのではないでしょうか。シンオーは、その突破口のひとつになればと切に思いますね。
いま、障がい者手帳を持っている方が全国で500万人といわれています。そのうち300万人が、後天的に精神を病んでしまわれた方ですね。100万人が身体障がいをお持ちの方、残りの100万人が知的障がいをお持ちの方で、うちに来てもらっているのは、その方たちです。いまのところ、神奈川県の障がい者支援施設5団体から40人の方に来てもらっています。来たいという方はたくさんいらっしゃるのですが、距離が遠くてなかなか難しい。それでまだ5団体というわけです。
「うちの近くにも働く場を」という声にも応えたい。
■奥さまも福祉関係の仕事をなさっているとか。
宮城 「I`ll be(アイルビー)」という社団法人の理事をしています。これは障がいをお持ちの方の就労支援をするための組織で、本格稼働は2016年の秋からです。
シンオーに来ていただいているのは5団体ですが、それ以外に50団体の施設とお付き合いがあります。その方たちから、「自分たちの施設からも行かせたいけどクルマの手配などが大変でなかなか難しい。だから、うちの施設の近くにも働ける場を作ってくれないか」という要望があります。そのような声に応える意味もあって、シンオーが中心となって、50団体に施設内作業で行える仕事を依頼するシステムをつくりました。週に1回、各施設を回って、前回ご依頼したものを受け取り、今回の分をお届けするというシステムです。シンオーは、アイルビーと連動して、施設に依頼する仕事を開発しているわけです。
■あえて変な質問をしますが、障がいをお持ちの方が働いていると聞くと、
安い賃金で働かせて大儲けしているのではないかと疑う人がいませんか。
宮城 残念ながら、確かにそのようなことを耳にすることがあります。特に、障がいをお持ちの方が身近にいない方、障がいに対する知識や見識がない方ほど、そのようなことを言われるようです。でも、そんなことはありません。アイルビーは、まだ利益が出ていませんし。私は、障がいをお持ちの方が笑顔で働いて、ちゃんとお金を得られるビジネスモデルを作りたいと思っているのです。
先日、ある会社の部長さんと話をしていたのですが、「40歳・50歳になって新たな仕事を始めるときは、利益を出すというだけでなく、社会的に意義があることをやるのがいいと僕は思っています」とおっしゃった。「あなたがやろうとしていることは、悠久の大義ですよ」と。それは言い過ぎだと思いますし、「過大評価ですよ」とお答えしたのですが、気持ちの部分でご理解いただけているのだなと、とても嬉しかったですね。
仕事をするのは何のためか、もちろん、家族を養うためではあるのですが、一方で、自分が死ぬ日のためでもあると思うのです。いまから死ぬ、というときに、人生を振り返る。そのときに、なかなか面白かったと思って死ぬのか、後悔して死ぬのか。私は、「ああ面白い一生だった」と思って死にたい。いまは、その一点をめざしてやっているような気がしています。
障がいをお持ちの方々が
経済活動に参加できるモデルケースをつくりたい。
■「障がい者自立支援法」が「障がい者総合支援法」に改正されましたが。
宮城 ええ、2006年に施行された「障がい者自立支援法」が一部改正され、2013年に「障がい者総合支援法」として新たに施行されました。これは私の考えですが、従前の法律は親御さんのための法律です。つまり、家族に障がいをお持ちの方がいると家庭内でケアしないといけない。親御さんは家から出られず、生産活動に参加できない。そこで日中だけでも障がいをお持ちの方を預かって、親御さんに生産活動に参加してもらって、お金を稼いでもらって、税金を払っていただくというポリシーでつくられた。ですから福祉施設は預かるだけで良かった。
ところが、国の財政の問題もあって、お役人が障がいをお持ちの方にも働いてもらおうと考えた。それが「障がい者総合支援法」です。障がいをお持ちの方が働けば、その方たちにお金が入る、国の支出も減る、一石二鳥だと。ものすごい舵の切り方なのですが、現実は、なかなか思惑通りにいっていない。新しい法律に適合する施設が全国的にもまだまだ少ない。施設はもともとそのようなスキームで作られているわけではないし、急にそんなこと言われてもなかなか対応できない。国からはああしてください、こうしてください、とアナウンスはあるけれど、かといって効果的な指導ができているわけでもない。
そのような状況の中で、先ほども言いましたが、シンオーは、障がいをお持ちの方が働いてお金を得る仕組みを作ろうとしている、ひとつのモデルケースをつくろうとしているのです。
私が、勤めていた商事会社からこの事業を引き継いだ一番の理由はここにあります。自分の思い描いているビジネスモデルをさらに突き進めていくには、人の会社ではだめで、自分が代表になるしかないと思ったわけです。
シンオーの活動に対して、厚労省のお役人からはどんどんやってくださいとは言われているのですが、めざすカタチが完成するのは、まだまだ先のことだと思っています。
■少子高齢化が進むなか、障がいをお持ちの方も大切な労働力ということですね。
宮城 そうです。障がいをお持ちの500万人のうち、働くことができる方たちが経済活動に参加すれば、日本の労働力不足の解決につながると思います。そのお手伝いをしたいというのが、シンオー設立の大きな目標です。
シンオーは、内職の仕事も受けています。内職は、いま、やる人がいないのです。内職するよりはパートに出た方が割りがいいからですね。
メーカーさんは、内職の仕事を出したいのだけど、引き受け手がないから、社内でやっている。でも、これから労働力はますます減少していく。そこで、そのような内職の仕事を、全国にいらっしゃる障がいをお持ちの方にうまく分配できないだろうか。一方に内職の仕事を頼みたい人がいて、一方にそのような仕事を求めている人がいる。この両者をうまくつなげることができないだろうか。そのような想いから、まず神奈川県でその取り組みを確立させようということで、現在いろいろとやっているのです。
全国に500万人の障がいを持つ方がいる。その中には、働ける人もいる。たとえば、4人で一人分の仕事をするとしても、ざっと100万人の潜在的な労働力があるということです。この100万人を動員できるビジネスモデルを作ったら、全国的に展開できたら、すごいことになると思いますね。
障がいをお持ちの方を支援するビジネスを
日本政府の投資の対象にできないだろうか。
■とてもスケールの大きな話ですね。
宮城 私はビジネスから福祉に関係するようになったので、そのような発想をするのかもしれませんね。また、夢みたいな話に聞こえるかもしれませんが、その夢の話を続けますね。
いま、日本経済は停滞していて、民間において大きな投資は行われていません。結局、日本最大の投資家は、日本政府ということになる。政府は税金を公共事業にも入れているが、福祉にも入れている。その福祉に入れているお金は、そこから広がっていかない、市場を活性化させているわけではない。これは投資先として考えてみると最悪なわけですね。
ですから、国が福祉に対してつけている予算のうち、1%でも、たとえ0.1%でも、障がいをお持ちの方が働くためのインフラ整備に回すことができたらと思います。そうなると、彼らはそこで商品をつくる。商品が売れて彼らの収入が増えると、支出も増える。新たな経済サイクルが動き始める。
国の予算が何百万人もいる障がいをお持ちの方の仕事のために使われたら、彼らの収入が全国平均月1万5千円ということは起こらないと思いますね。
■新たな投資先が、新たな経済サイクルを生む!?
宮城 そういうことですね。私は、シンオーのビジネスモデルが全国的に広がっていけば、世の中は大きく変わっていくと思っています。福祉からの経済的な変革であり、いまの社会の成り立ち方へのひとつの提案ですね。ですから、今後、第二・第三のシンオーが出現するのを切に望みます。
ただ、先発として言わせていただくなら、私たちのコンセプト、つまり、障がいをお持ちの方が笑顔で働く、そのことが彼らの日々のモチベーションとなる、しかも経済的にも豊かになれる、というコンセプトは、しっかり踏襲していただければと思います。
思うに、私は、皆さんを驚かせたいのでしょうね。先ほども言いましたように、皆さんが、「えっ!」とびっくりするようなことができたら面白いだろうなと思うし、死ぬときは、笑って死ねると思います(笑)。
シンオーに共感して手伝いたいという方、ウェルカムです。ご連絡をお待ちしています。